Impactをもっと使ってみる3



Fig.1 のように、質量 m の剛体が、v0の一定速度で、運動しているとします。
剛体が、長さ L , 断面積 A の棒に衝突したとき、棒はどの程度たわむ(圧縮)ことになるか、求めてみようと思います。

ただし、棒自身の質量による、慣性力(静止していようとする慣性力)は無視するとします。また、剛体が、棒に衝突した瞬間から、剛体は棒と一体となって運動する(跳ね返りは無かった)ものとします。

剛体の運動エネルギーを、棒の弾性歪みエネルギーで、完全に吸収したとした(剛体の運動が静止し、棒のたわみ量が最大となった)と考えます。

剛体が速度 v0 で運動している場合、剛体が持っている運動エネルギーは、
1 / 2 ⋅ ( m ⋅ v02 )

バネ定数 k のバネが、x だけ縮むとき、その弾性歪みエネルギーは、
1 / 2 ⋅ ( k ⋅ x2 )

ここで、棒の軸方向に荷重 F を加えた時の、たわみ量 x を求める式は、
x = ( F ⋅ L ) / ( A ⋅ E )

上式を、F= となるように整理すると、
F = ( ( A ⋅ E ) / L ) ⋅ x
となる。
上式と、フックの法則式 F = k ⋅ x を比較すると、ちょうどバネ定数 k に相当する部分がわかる。よって、長さ L , 断面積 A , 縦弾性係数 E の棒を考えた場合、そのバネ定数 k は、
k = ( ( A ⋅ E ) / L )
となる。

よって、バネの弾性歪みエネルギーの式より、棒の弾性歪みエネルギーは、
1 / 2 ⋅ ( k ⋅ x2 ) = 1 / 2 ⋅ ( ( ( A ⋅ E ) / L ) ⋅ x2 )

今、剛体の運動エネルギーを、棒の弾性歪みエネルギーで、完全に吸収したときを考えているので、
1 / 2 ⋅ ( m ⋅ v02 ) = 1 / 2 ⋅ ( ( ( A ⋅ E ) / L ) ⋅ x2 )
となる。

よって、棒の軸方向たわみ量 x は、
x = √( m ⋅ v02 ⋅ L / ( A ⋅ E ) )
となるはず。


次に、たわみが最大となる時間について考えてみる。
Fig.3 のように、バネ⋅マス系と捉えると、これは周期的な振動をする1自由度系の振動モデルと捉えることができる。このような単純な1自由度系の振動モデルの、固有円振動数 ωn [rad/sec] は、

ωn = √( k / m )

ここで、バネ定数 k は、Fig.1 のような棒の場合、k = ( ( A ⋅ E ) / L ) と表現することができるので、固有円振動数 ωn [rad/sec] は、以下のように書き直せる。

ωn = √( ( ( A ⋅ E ) / L ) ⋅ 1 / m )


右図のような振動周期(sin波)を考えた場合、たわみ量(圧縮)が最大となる時間は、1/4 周期の時であることが分かる。
よって、たわみ量(圧縮)が最大となる時間 t [sec] は、π / 2 [rad] を、その固有円振動数 ωn [rad/sec] で割ったもの、

t = ( π / 2 ) ⋅ ( 1 / ωn ) [sec]

となるはず。

今、棒の縦弾性係数 E = 1000 [Pa] , 全長 L = 100 [m] , 直径 D = 2.0 [m] の棒と、剛体の質量 m = 10 [kg] , 初速度 v0 = 1.0 [m/sec] の剛体を考えると、
棒のたわみ量は、
x = √( 10.0 × 1.02 × 100.0 / ( ( 1.02 × π ) × 1000.0 ) ) = 0.5642 [m]

棒のたわみ量(圧縮)が最大となる時間は、
ωn = √( ( ( ( 1.02 × π ) × 1000.0 ) / 100.0 ) × 1 / 10.0 ) = 1.77245 [rad/sec]
t = ( π / 2 ) × ( 1 / 1.77245 ) = 0.8862 [sec]

以前までのブログ記事と同様に、上のような Impact FEM 用モデルを作成し、同様な条件で、速度 v0 で運動している剛体(質点)を、棒に衝突させてみた。


Fig.4 剛体(質点)の速度



Fig.5 棒 先端部の たわみ量


まず、棒のたわみ量が最大となる(剛体の速度がゼロとなる)時間は、0.8831 [sec] (理論式との差異 0.35 [%]) となった。また、その際の、棒のたわみ量は、0.5626 [m] (理論式との差異 0.28 [%]) であった。

ここで、注意点がある。理論式では棒自身の質量は無視しているが、陽解法では、振動の伝播を扱うので、質量密度がゼロの物体は、計算ができない(振動しない)。ここでは、結果に対して十分寄与が小さくなるだけの小さな質量密度を棒に与えた。そのため、若干ではあるが、棒自身の質量によって、静止しようとする慣性力(抵抗力)が発生し、それにより、理論式よりも たわみ量は小さくなるはずである。Impact FEM による計算結果は、その予測通りであった。

上までは、エネルギーの保存則によって、たわみ量を求めてきたが、物体の運動を表現するに、エネルギーという値の他に運動量というものがある。運動量には、それに関わる法則として「運動量の変化は、力積に等しい。」というものがある。さらに詳しく言うと、力が一定値でなく時間と共に変化している関数である場合は、F-t グラフを作成した場合の、その面積(積分,総和)と、運動量の変化は等しい。
今回の計算においても「運動量の変化は、力積に等しい。」が成立しているのかどうか見てみようと思う。

上の問題では、質量 m = 10 [kg] , 初速度 v0 = 1.0 であったので、棒のたわみ量が最大となる時間での、運動量の変化量は、

m ⋅ v0 - m ⋅ v = 10.0 × 1.0 - 10.0 × 0.0 = 10.0

次に、今回の計算において、棒に作用している力 F と、時間 t のグラフは、以下のようになっていた。


Fig.6 棒に作用している荷重


上記のグラフデータを、時間0 ~ 0.8831 で区間積分(台形則による数値積分)を行ったところ、その力積(面積)は、10.001 であった。

理論式と、陽解法プログラムによる結果と、どちらも理論上での数値同士の比較ではあるが、たしかに、運動量の変化は、力積に等しいことを見ることができた。

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